かつて澁澤龍彦という名は、傍流の文学者の中でもビッグネームだったと思う。
澁澤龍彦の本を読んでいるというだけで、親の世代は眉をひそめ、同級生たちは「変な奴」という目で見ていたのではないかと思うし、そういった評価をあえて受けたくて手に取ろうとするのは、十代の若気の至りに他ならないが、そんなことはこの本の内容とも、澁澤龍彦という作家の評価とも関係が無いだろう。
ともあれ、何年ぶりかに本棚から取り出して読んでみた。
一時期は夢中になって貪り読んで、全集が出る前にほとんどの本を購入していたぐらいだったけれど、人生の様々な局面で手放してしまったのはもったいない気もするが、まあそういうことも度々ある。
あとがきを見ると昭和58年とあり、59歳にて亡くなったのが昭和62年、つまり今の自分と同い年の頃に書いた文章だったことに気づいた。
初見の頃は冒頭に書いたように、それこそ伝説的な人物の文章だと思って読んでいたけれど、今では同い年の作家として読めるのは、何とも不思議な感じもする。
それで読んでみると、まぁ、そんなことを面白がったりするのか、といささか隔世の感は否めない。
過ごした時代も違うし、過ごした世界も違う。
だが、語り口というか、文章を綴る時のスタンスのようなものは、多分に影響を受けているような気がした。
表題作の「マルジナリア」よりも、石川淳の書評や解説、SFについてのエッセイなどに影響が見える気がした。
そう思うと、同い年の自分は誰に影響を与えているのか。
それは自分の与り知らぬことだから、これ以上書くことなど無い。
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