このところ「良い文章」というのに触れていない気がして、内田百間(本当は門構えに月)の随筆集を引っ張り出す。
題材は日常のことや、悪口や、飛行機、借金など様々だが、その語り口がやはり良いのだと思う。
例えば、飛行機に乗るときに高所恐怖症は、離陸直後ぐらいまであって、高度が上がると薄れていってしまうが、地上に自分の乗った飛行機の影を発見したとたんに、怖くなったという。
こう書いてしまうと、面白くも何とも無いことが、内田百けんの手にかかると何とも味わい深いものになる。
また、蜻蛉玉では「私」の病的なまでの几帳面さが、想像と現実を混ぜながら語られてゆく。
しかもその「私」とは作者ではないと、冒頭でわざわざ断り書きを書いているのだが、果たして本当だろうか。
吸殻に始まり、日本銀行の金庫に飛び、切腹羊羹に終わる、この随筆がとても好きだ。
つまるところ、随筆の内容が何であれ、その語り口に引き込まれてしまう。
借金や貧乏の話などは、毛頭、借金なんぞする気も無いのだが、それもありかと思わせるところまで連れて行ってくれる。(しないけど)
試しに「蜻蛉玉」を立ち読みでもして、その面白さが判ったら、気に入るのではないだろうか、と思う。

- 作者: 内田百けん
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/04/25
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