雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

飛ぶ男/安部公房

安部公房の遺品のワープロの中に残されていた物語である。

当然ながら作品として発表されたものでもないし、書きかけのまま残されていた未完成のもので、作者自身が公開を望んでいるとも思えないのだけれど、ファンとしては垂涎モノであることは間違いない。

言わば、創作ノートのようなもので、作品としての質を誰何するものではないのを承知で取り上げるが、この物語が完成していたら、とんでもない物語になったに違いないと思うのだ。

不条理な状況設定。

神経を逆なでするような人物設定。

残された断片からは、物語の行方は分からない。

けれど、勝手に推測してみると、「飛ぶ男」はもう一つの物語である「さまざまな父」の一部でありながら、物語の時間的推移は「飛ぶ男」が担うような、互いに入れ子となっている、いわばクラインの壺のような構造を為すような作品になったのではないかと想像する。

全ては一読者の勝手な夢想である。