この本は、「砂の女」「燃えつきた地図」「方舟さくら丸」といった長編の原型となった短編が収められている。
基本的に安部公房の物語は陰鬱だと思う。
灰色にくすんだ日常のような世界なのだが、どこかしら奇妙な歪みがある。
砂に埋もれそうになっている集落の夜の労働、見慣れたはずだったカーブの向こう側にある町並み、自分の糞を食べてあたかも時計の針のようにくるくる回る虫。
他にも、保険金詐欺のための簡易交通傷害保険自動販売機、会社ぐるみの詐欺のための完全映画、地下の子供部屋に幽閉されている青白い子供たち。
皮肉めいた薄笑いさえもない、陰鬱なモチーフの短い物語なのだ。
だが嫌いではない、いや、むしろ安部公房は好きな作家だ。
しかし、描き出される世界は陰鬱だ。
- 作者: 安部公房
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1988/12
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 3回
- この商品を含むブログ (6件) を見る