雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

物語

犬狼都市/澁澤龍彦

そういえば、最近小説を読んでいない。 TVだってドラマは見ない。 見るとしたら、ニュースか天気予報かドキュメンタリー、たまにはバラエティも見るが、「旅・温泉・グルメ」的なもの。 (全ての条件を満たすのはテレ東か?) ということで、適当に本棚か…

カーブの向う・ユープケッチャ/安部公房

この本は、「砂の女」「燃えつきた地図」「方舟さくら丸」といった長編の原型となった短編が収められている。 基本的に安部公房の物語は陰鬱だと思う。 灰色にくすんだ日常のような世界なのだが、どこかしら奇妙な歪みがある。 砂に埋もれそうになっている集…

あなたにここにいて欲しい/新井素子

この本もまた図書館で借りた。 実に20数年ぶりの再読である。 確か友人に薦められて読んだうちの一冊だったか、ピンク・フロイドの「Wish you were here」が引用されているから手を伸ばしたのか、それはもう定かではない。 ともあれ再読してみたのだが、スト…

ムーミン谷の彗星/トーベ・ヤンソン

この本もまた図書館で借りた。 かすかな記憶なのだが、日曜夜7:30からのカルピス名作劇場で見たのだと思う。 だが、子供の頃はあまりTVを観ていなかったので、本当にリアルタイムで観たのか、再放送や懐かしのアニメ特集で観たのか、いささか不確かなのは否…

ムーン・パレス/ポール・オースター

なんとなく弱っているものだから、好きな本でも読むことにした。 この本を読むのはもう何度目か分からないが、何かあると逃げ込みたくなるアジールのようなものになっている。 本を読んで人生が変わるというのは度を越した誇張だと思うが、何か息が楽になる…

サラジーヌ 他三篇/オノレ・ド・バルザック

この本もまた図書館で借りた。 この本を読もうと思い立ったのは、ロラン・バルトの「S/Z」に興味があったからに他ならない。 バルザック作品そのものには、大して興味はない。 古典作品への素養が足りないと言ってしまえばそうなのだが、強いて言えば「セラ…

三島由紀夫レター教室/三島由紀夫

この本もまた図書館で借りた。 5人の登場人物たちがやり取りする手紙で構成された小説である。 いかにも判りやすいように人物設定されており、また話の筋が判りにくいという事もない。 二組のカップルを巡るスラップスティックであり、残る一人は狂言回しと…

バッカイ バッコスに憑かれた女たち/エウリーピデース

この本もまた図書館で借りた。 ポンペイ遺跡にあるディオニューソス秘儀の壁画を知ったのは、高校生ぐらいだったろうか。 真っ赤な背景に、倒れこんでいる鞭打たれる女性と、その傍らで全裸で踊る女性の場面に、何かしら官能的なものを嗅ぎ取っていたように…

春の雪 豊饒の海・第一巻/三島由紀夫

東京に大雪が降ったことと、この本を読み終えたことは何の符牒だろうか。 いや何の符牒でもない。 久しぶりに読み返してみて、実にあざとい物語だ、と思った。 いまさら言うまでもないことだが、どうしても言いたくなるぐらいだ。 「豊饒の海」と題した連作…

箱男/安部公房

久しぶりに「箱男」を読み返してみる。 今更、荒筋なんて何の意味も無いだろう。 むしろこの物語は荒筋を語ったところで何の意味もない、と言うべきかもしれない。 いくつかのテーマがそれぞれに展開される。 まずは、見ることをめぐって書かれた物語だとい…

パニック・裸の王様/開高健

久しぶりに開高健を読んでみたくなり、図書館で借りた。 このブログにコメントを残していただいた方に、開高健を教えていただいたのは、いつのことだったか。 ともあれ、読んでみると、その小説世界にたちまち引き込まれた。 今まで読んでいなかった自らの不…

芝生の復讐/リチャード・ブローティガン

出張に持っていく本をさんざん悩んだ挙句、この本を持っていった。 だが、出張というものを甘く見ていたのか、あるいはこの本の特性を見極め切れていなかったのか、原因はどちらか判らないが、あまりぴったりと言う気がしなかった。 おもに読んだのは、飛行…

赤外線男/海野十三

他の本も読んでいるのだけれど、スマホで読める青空文庫は意外と重宝している。 海野十三は本屋で探しても見つからないのだが、青空文庫にはそれなりに収録されている。 この本は昭和初期の東京を舞台とした探偵小説だ。 タイトルから推測できる通り、怪奇趣…

鶏/森鴎外

性懲りもなく、森鴎外を読む。 軍人の主人公と使用人の諍いの話、とでも言おうか。 描かれる使用人たちの姿に、鴎外の悪意のようなものを感じる。 卑俗で狡すっからい庶民みたいな姿は、一体何なのか。 かと言って、軍人に肩入れしていると言うわけでもない…

魚玄機/森鴎外

森鴎外を青空文庫で読む。 やはり自分は漱石の方が読みやすい。 だがそれは、鴎外の良さに気付けていないからなのだと考える。 例えばこの話は、魚玄機の業の深さのようなものが、主題の様な気がするのだけれど、それを見ている鴎外の視線が気になってしまう…

高瀬舟/森鴎外

前にも書いた気がするが、私は名作と言われる作品をあまり読んでいない。 濫読の偏読では無教養といわれても仕方ないので、たまには名作を読んでみようかという気になる。 もちろん読んだからといって、無教養が解消する訳ではない。 ということで、森鴎外の…

黄金の驢馬/アープレーイユス

気になって読んでみた。 以前、オシテオサレテにて紹介されていたのが気になっていた。 ロバに姿を変えられた主人公が、人間社会の裏側をちら見させるのだが、何と言うか、ふざけた話ではある。 同じく古代ローマ期の小説で比べるなら「サテュリコン」が食と…

ガルガンチュワ物語/フランソワ・ラブレー

全5巻セットを持っているのに、しまいっぱなしだったのをふと思い出して、読んでみた。 実にくだらない。 そして面白い。 巨人のガルガンチュワは耳から生まれ、「のみたーい!のみたーい!のみたーい!」と産声をあげる。 お乳を飲ませるために、17913頭の…

サテュリコン/ペトロニウス

何度か読みかけては止めていたのだけれど、ようやく読み終えることが出来た。 古代ローマの小説なのだけれど、一言で言うならスラップスティックだと思った。 特に「トリマルキオンの饗宴」の章は圧巻だ。 奇想天外な料理の数々と、狂騒的な台詞回しは、冷静…

怪談/ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)

確か前にも読んだ気がするのだけれど、改めて岩波文庫版で読んでみる。 それにしても、最近の岩波文庫への偏重は如何ともしがたい。 読むに値する古典は岩波にしかない、と嘯いてみたって、読みの浅さでお里が知れるというものだから、単に想像力と意欲の欠…

砂の本/ホルヘ・ルイス・ボルヘス

この本を読むのも、もう何度目だろうか。 やはり、表題作「砂の本」は素晴らしい。 二度と同じページを開くことの出来ない本、という眩暈のような無限のイメージが好きだ。 「バベルの図書館」のヴァリエーションには違いないが、一冊の本に無限が詰まってい…

雪国/川端康成

仕事帰りにふらっと図書館に寄って何となく借りてみたうちの一冊。 名作と言われるものを、あまり読んでいないので、夏の100冊フェアでもよくエントリーされているし、世間は夏休みだし、ちょっと読んでみようかと思った。 だが、この作品は本当に名作なのだ…

家族八景/筒井康隆

例えば、この物語の主人公は、ジュスティーヌなのかジュリエットなのか、と考えてみる。 もちろん、マルキ・ド・サドの、「ジュスティーヌ物語あるいは美徳の不幸」「ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え」のことである。 主人公の火田七瀬は他人の心が読め…

インド夜想曲/アントニオ・タブッキ

何度でも読み返したい本のうちの一冊である。 なぜ私は読み返したいと思うのだろうか。 この小説は友人を探す物語であり、旅をする物語であり、あるいは存在の物語でもあり、物語についての物語でもある。 物語としての起承転結を味わいたいと思っているので…

サラサーテの盤/内田百けん

何が読みたいのかよく判らない時期に、自分がはまり込んでいる。 こういうときは、好きな本だけ読んでいよう。 というか、もともと好きな本だけ読み返すんじゃなかったっけ? まあ、いいか。 内田百けんの作品でも、やはり「サラサーテの盤」「東京日記」に…

アルジャーノンに花束を/ダニエル・キイス

この物語へのアプローチを、知性と倫理の相反する哀しみとして読むのが正門だとしたら、裏門はどこにあるのか探してみる。 知恵遅れの主人公チャーリーの報告書の体裁であるから、チャーリーを取り巻く人々の視点から考え直してみるのが有効だろうと当たりを…

カンバセイション・ピース/保坂和志

この本は、記憶と視覚についての小説だと思った。 あるいは、家と猫と横浜ベイスターズについての小説と言っても良い。 起承転結で表される大きな物語構造はほぼ無いに等しいのだが、登場人物たちの会話の中に畳み込まれている。 だから、一見すると何も起こ…

羅生門・鼻/芥川龍之介

これは、子供に読ませてはいけない本なのではないだろうか、とさえ思える。 確かな記憶では高校生の現国、もしかしたら中学生の頃、教科書を通じて、初めて芥川龍之介に触れたと思う。 この「羅生門・鼻」は、所謂、王朝ものの短編を集めている。 国語の教科…

文鳥・夢十夜/夏目漱石

なかなか読み終わる本が無いので、合間に電子書籍で「文鳥」を読み返してみた。 けだし名品である。 いまさらそんなことを改めて言う必要も無いくらいだが、やっぱり名作だと思った。 興味があった訳ではなかったのに、鈴木三重吉に勧められて、夏目漱石は文…

鍵から抜け出した女/海野十三

電子ブックを引き続いて読んでみる。 一篇づつという辺りはお手軽と言うか、もどかしいと言うか。 確かにこの文体似ているかもしれない、と思い始めてきた。 海野十三は「新青年」にも、作品を発表していたようだ。 そういわれてみると、モダニズムの雰囲気…