確かにそこに居たのだという痕跡が記憶に紛れ込んできたかのように
- 作者: 鬼海弘雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1999/11
- メディア: 大型本
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この写真集には人物は写っていない。
いたとしても、彼ら彼女らは風景の中に溶け込んでしまっている。
だがここに強烈に漂うのは他人の体温のような、そこに誰かが居たのだ、というようなサインのように思われる。
それは、洗濯物や開いているドア、自転車、駐車車両、看板、ガラクタそういったものに、それが隠されたサインなのか?
これが東京の風景なのだ、というメッセージ性のあるものではない。
だが、東京を歩き回ったことのある人なら判る様な、密やかなメッセージがある。
廃墟では無いのだが、ひとけのない街。
それは、ポール・デルヴォーの描く街に似ているかもしれない。
シュルレアリスティックな日常の裂け目のような瞬間。
確かに誰かがそこに居たのに、誰も写っていない、そこは確かに東京であるのに、東京でないような風景、何かが少しづつずらされてしまっているようだが、それも錯覚かもしれない。