不思議な感触の小説だった。
ネットのどこかで評判を見かけて、気になったので図書館で借りてみた。
なので、著者のことも知らないし(芥川賞を受賞していたらしい)、どんな小説か(野間文芸新人賞を受賞したらしい)もほぼ無の状態で読み始めた。
感触について例えるとしたらグミのようだと思った。
自分は関東育ちなので、表題作の関西弁(大阪弁?)の語りは、別世界のようだ。
日常を描くような語り口は、保坂和志をちょっと連想するが、物語としては全く異なる。
表題作は児童養護施設に暮らす少年が主人公で、施設に暮らすことになった経緯は全く説明されず、親しいもう一人の少年は女性の先生からセクハラを受けている。
言葉にすると何だかハードな内容のような印象になるが、淡々と、そしてゆっくりと、丁寧に少年の日常が描かれる。
その女先生は妊娠中でつわりがひどい状態であり、精神的にも不安定な様子が示唆されている。
この世界の人間はそれぞれがそれぞれに何かを抱えていて、でもそれはそれとして淡々と、そしてゆっくりと日常が流れてゆくのだという感覚が、この小説には捉えられているのだと思ったけれど、それは読み手の自分の感覚のことで、著者の伝えたい事ではないかもしれないが、ともあれそう感じた。
併録されている「膨張」の主人公はゲストハウスやホテル、漫画喫茶などを泊まり歩いて暮らす「アドレスホッパー」という生き方で、彼氏からDVを受けている。
ちょっと自分にとっては想像のつきがたい暮らしぶりが、こちらも淡々と、そしてなぞるように描かれてゆく。
バリバリとかみ砕かないと飲み込めないような硬いものでもなく、するすると飲み込んでしまえるような柔らかいものでもなく、グミのような弾力があって、ちょっと噛んだり舐めたり、飲み込む前にいったん口の中で転がさないと飲み込めないようなものなのだと思った。
確かに今までにない感覚の読書体験ではあった。
引き続き読むかどうかは、もう少し時間を置かないと分からない。
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